ピザ屋銃撃事件で見えたフェイクニュースの危険性

事件・事故

2016年の米国大統領選挙ではフェイクニュースが作られ、実際の銃撃事件にまで発展しました。今回はフェイクニュースが引き起こした実際の犯罪についてご紹介します。

2016年の米国大統領選挙

2016年の米国大統領選挙は、2016年11月8日にアメリカ合衆国で実施されました。民主党のヒラリー・クリントンと共和党のドナルド・トランプが対決し、多くの世論調査はヒラリー・クリントンの勝利を予想していましたがその予想を覆しドナルド・トランプが勝利しました。得票数ではクリントンがトランプを上回っていましたが、選挙人獲得数ではトランプがクリントンを上回り、トランプの勝利が確定しました。これによりトランプが合衆国大統領に就任しました。

ピザ屋で人身売買が行われている?

2016年のアメリカ大統領選挙の最中、ヒラリー・クリントン陣営の関係者のメールがハッキングされました。そのメールにはクリントンの資金集めに協力していたジェームズ・アレファンティスという人の名前がありました。
このメールを読んだ一部の人が「メールの中に小児性愛や人身売買を示唆する暗号が含まれている」と主張しました。そして、アレファンティスの経営するピザ屋「コメット・ピンポン」で「児童性的虐待や人身売買を行っている」というデマがインターネット上で拡散されることとなったのです。これが「ピザゲート」と呼ばれる陰謀論です。
出回ったメールの本文や、ピザ店のロゴやSNSの写真から「これは人身売買に関する暗号だ」と無理やり解釈した情報が出回りました。もちろんこれらは全て事実無根であり、何度も否定されています。
食べ物の名前が「性的虐待の隠語である」というような解釈がされていたようで……なんというか、想像豊かですね。人は自分の信じたいものを信じるといいますが、インターネットでは特に同じような思想の人たちが集まる傾向にあるので、そういった一見するとトンデモな話が真剣に信じられやすくなってしまうのです。

始まる嫌がらせ、そして銃撃事件へ

数々の「証拠」が発見され、デマはインターネットを介して急速に広まりました。Twitterでは「#pizzagate」というハッシュタグが使用され、毎日多くのツイートとリツイートがされました。アレファンティスやその友人などの関係者には何百もの脅迫が送られてきました。さらにネット上だけではなく噂を信じた人たちによって実店舗にまで脅迫電話がかかってくるなどの嫌がらせが始まりました。
ついには、2016年12月4日エドガー・マディソン・ウェルチという男がコメット・ピンポンに押し入りライフルで銃撃しました。幸いなことにこの銃撃で負傷者は出ませんでした。ウェルチは襲撃の数日前に陰謀に関するYouTubeビデオを見るよう勧めて友人を勧誘しようとしたといいます。また、犯行は「ピザゲートの実態を調査し、子供たちを救うためだった」と主張し、裁判でも第五までピザゲートをフェイクニュースだと認めませんでした。
さらに、陰謀論者の一部は「この事件も仕組まれたものだった」と、ピザゲートの主張に利用しました。

信じられ続けられる陰謀論、そしてQアノンの誕生

様々なメディアや警察が調査した結果、「コメット・ピンポン」の噂はデマだったと結論付けています。
しかし、大統領選挙に決着がついたあとも、この「ピザゲート」を発端とする陰謀論は一部の人々に信じられ続け、その後「Qアノン」というより大規模な陰謀論に発展し、多くの支持者を得ることとなりました。
Qアノンとは、アメリカの極右が主張する陰謀論やそれに基づく政治活動のことです。この陰謀論によると、世界中で児童売春組織を運営している悪魔崇拝者・小児性愛者・人肉食者の秘密集団が存在し、ドナルド・トランプはその秘密集団と戦っている英雄だとされています。Qアノンの信者によって多数の暴力的事件が引き起こされ一般的にカルト宗教と見なされています。Qアノンは、アメリカだけではなく日本を含めたアジアやヨーロッパにも広がっています。
「コメット・ピンポン」はその後も標的にされ、2019年1月25日、Qアノン信者に放火されるという事件が起こりました。

今回は、「ピザゲート」を紹介しました。
インターネット上では、陰謀論やフェイクニュースが簡単に作られ、広まり、人々に信じられてしまうことがあります。これは、自分の信念や感情に合った情報を選択的に受け入れる確証バイアスや、公式なメディアや権威に対する不信感が影響しているようです。
陰謀論やフェイクニュースは、時に暴力行為や差別行為を正当化し、民主主義や法治を侵害する行為を助長します。さらに、科学的な知識や専門的な判断を無視してしまうこともあります。これは、真実や事実をゆがめ、ときにはいわれのない攻撃を受ける人を生み出してしまうのです。
この事件はアメリカで起こったものですが、日本でもインターネットで多くのフェイクニュースが出回っていることも確かです。これからの社会では、陰謀論やフェイクニュースに惑わされないために、正しく情報を判断する能力が重要になってくると言えるでしょう。出回ってきた情報を鵜呑みにせず「ちょっと待てよ?」と一歩立ち止まって考えてみましょう。

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