スーパーで冷凍食品を買ったときなど、冷やすためにドライアイスを使うことがありますね。しかし、そのドライアイス、取り扱い次第では死亡事故を引き起こすことがあるのです。
そもそもドライアイスとは?
ドライアイスは二酸化炭素を冷やして作るもので温度は-78.5°Cと非常に冷たい物質です。
二酸化炭素は、空気の中にある気体の一種です。炭素と酸素がくっついてできているので、二酸化炭素と呼ばれます。二酸化炭素は、色も匂いもないので、目に見えたり鼻でかぎとったりすることはできません。でも、二酸化炭素はとても大切な役割をしています。例えば、植物は光合成を行うとき、太陽の光を使い二酸化炭素を吸って酸素を出します。
ドライアイスは固体が溶けた後そのまま気体になります。なので、水で作った氷よりも冷たくて、溶けたあとに水が残らないという特徴があります。だから、保冷剤として使い勝手が良いんですね。
身の回りのドライアイス
ドライアイスは身の回りにたくさんあります。例えば、スーパーで冷凍食品を買ったときやケーキを買ったとき、持って帰る時間が長いとドライアイスをつけてもらえたりしますね。
また、医療器具の輸送にも使用されています。ドライアイスは、血液や臓器、新型コロナウィルスの輸送にも使われていたんですよ。
さらにスモークの演出としてドライアイスが使われることがあります。このスモークは、劇場やライブ、ウェディングなどのイベントで使用されることがあります。
これはドラアイスが溶けたときに液体にならずに直接気体になる性質を利用したものです。ドライアイスが気体になるときは水蒸気になり、周囲の温度を下げます。
ドライアイスが引き起こした事故
では、そんな身の回りにあふれているドライアイスで起こった死亡事故を2件紹介します。
まずは、葬儀場で起こった死亡事故です。
事故は2012年9月5日、東京都内の葬儀場で発生しました。父親の通夜に参列した女性(当時36歳)が、棺の中に入っていたドライアイスから発生した二酸化炭素を吸い込んで意識不明になり、病院に搬送されたが死亡したというものです。
事故の原因はドライアイスでした。二酸化炭素ガスは空気より重いため、棺の中に溜まります。女性は棺の中で父親の顔に頬ずりをしたりしていたため、二酸化炭素ガスを大量に吸い込んでしまいました。これが原因で二酸化炭素中毒になり、呼吸困難や意識障害を起こしました。
ドライアイスはご遺体の冷却や腐敗防止のために広く使われていましたが、その危険性が十分に認識されていなかったことが明らかになりました。この事故を受けて、葬儀業界ではドライアイスの使用方法や注意事項の見直しが行われました。
しかし検索すると令和3年でも同様の事故は起こっているようです。いまだに完全には亡くなっていないのですね。故人とお別れのときはつらいものですが、そのときもこのような事故があるという危険性を頭の片隅に入れておいてください。葬儀のあとに亡くなった場合に「連れていかれた」などと表現される場合がありますが、実態をしっかり知っておくことが大切です。
また、日本だけでなく海外でも死亡事故が起こっています。
事故は2020年2月28日、ロシアの首都モスクワで発生しました。インスタグラムに医薬品関連の投稿で100万人以上のフォロワーを持つエカテリーナ・ディデンコさん(当時29歳)の誕生日パーティーが行われました。パーティー会場にはプールがあり、そこにドライアイス約30キロが投入されました。これはサウナの後に入るプールを冷やし、またプール上にスモークを作るための特殊効果だったとされています。実際演出としては綺麗なのですが……。
しかし、ドライアイスから発生した二酸化炭素ガスが密閉した空間に溜まり、プールに飛び込んだゲストたちが二酸化炭素中毒で窒息しました。この事故で、ディデンコさんの夫を含む3人が死亡し、4人が重軽傷を負いました。動画の通りプールは密閉された空間であるため、ドライアイスから出た二酸化炭素ガスが排出されずに濃度が上昇しました。プールに入ったゲストたちは、二酸化炭素になり、死者が出ました。
ドライアイスは、パーティーやイベントなどでよく使われていますが、その危険性が十分に認識されていなかったことが明らかになりました。この事故を受けて、ディデンコさん自身もインスタグラムで夫の死を悼み、フォロワーたちにドライアイスの危険性を訴える動画を投稿しました。
実は推理小説でも……
ちなみに、このドライアイスを急速に溶かして二酸化炭素中毒を引き起こして死亡させる、という方法は推理小説や刑事ドラマでも登場させる手法です。ドライアイスは気化したあとに何も残らないので、凶器として現場に残らないんですね。
私が以前読んだ短編小説でもこのトリックが使用されていました。
それはざっくりとまとめるとこのような話でした。ある日、主人公のもとに元カノからプレゼントが届きました。そこには「心を込めたプレゼントです。お湯をかけて中身を見てみてくださいね」というメッセージが添えられていました。箱の中にはドライアイスが敷き詰められていて中身を見ることができません。
浮気はしたけど元カノとのヨリを戻したい。こんなプレゼントをくれるということは、元カノも浮気を許してくれたってことか?!そんな主人公は、はやる気持ちでドライアイスに包まれたプレゼントにお湯をかけました。そして、二酸化炭素中毒で死亡したのです。
プレゼントを贈った元カノは取り調べでこう答えます。「私があなたに対する気持ちは霧のように消えてしまってもう何も残っていない、ということを伝えたかっただけなんです」。つまり、プレゼントというのは中身は何もなく外側のドライアイスだけだったんですね。さらに彼女はこう続けます。「ドライアイスで人が死ぬなんて思わなかったんです」。結局その小説では元カノは何の罪にも問われませんでした。たとえ故意だったとしても、こういったパターンだと故意を立証することは難しいかもしれませんね。
ドライアイスには他にも危険が!
また、ドライアイスには二酸化炭素中毒だけではなく、以下のような危険性もあります。
- 素手で触ると凍傷になる可能性があります。ドライアイスは-80℃前後の超低温なので、皮膚に接触すると凍結してしまいます。使用する場合は、厚手の手袋を着用し、ドライアイスを新聞紙などで包んで扱うようにしましょう。
- 密閉容器に入れると破裂する可能性があります。ドライアイスは溶けると気体になりますが、その体積はドライアイスの時の750倍に膨張します。密閉容器に入れてしまうと、内圧が高まって爆発する恐れがあります。ドライアイスは密閉できない容器に入れて保管しましょう。
- お湯をかけると大量の煙が発生する可能性があります。ドライアイスとお湯の温度差は約180℃にもなります。この急激な温度変化によって、ドライアイスが一気に気化し、大量の二酸化炭素が発生します³。この煙は目や呼吸器に刺激を与えるだけでなく、熱湯やドライアイスが飛び散って火傷をする危険性もあります¹。ドライアイスを溶かす場合は、常温の水を使いましょう。
- シンクに流すと配管が破損する可能性があります。ドライアイスはステンレスや塩化ビニルなどの材質に対しても低温で収縮させる効果があります³。シンクや排水溝に流すと、配管が破裂したり詰まったりする恐れがあります¹。ドライアイスはシンクやトイレに流さず、屋外や発泡スチロールの箱などで自然に溶かしましょう。
ドライアイスは私たちの生活に欠かせないものですが不適切に扱うと様々な危険性を伴います。しかし危険だからといって一切使わないのは不便です。ドライアイスを使用する際は、注意して扱い、うまくつきあっていきましょう。
https://www.caa.go.jp/notice/assets/consumer_safety_cms201_210408_01.pdf